「エコハウス」って?
エコハウス本が賑わっている。
「エコハウスのウソ(/日経BP)」を書いたのは、東大の教授である前 真之さん。「本音のエコハウス(/エクスナレッジ)」は、室蘭工業大学の名誉教授である鎌田紀彦さん。「ホントは安いエコハウス」は、設計士の松尾和也さん。「エコハウス超入門」も松尾さん。
「エコハウス」とは、エコロジーハウスの略で、環境共生住宅とも言われる。自然・再生可能エネルギーを最大限に活かし、地産地消の材料を多用することで環境に負担をかけずに、すなわちゼロ・カーボンを目標にして建てる家のことと私は理解している。
であるから、学者から「ウソ」と決めつけられ、「本音」を問われ、実務家からは「ホントは」などと言われると、わが国の「エコハウス」には、いつの頃からウソと建前と不当な高値がまかり通るようになったのだろうかと、出版社の思惑どおり本を買ってしまったのだった。
前さんは、エコハウスの究極の目標は、「暖かく涼しい健康・快適な暮らし」を「いつまでも最小のエネルギーコスト」で「すべての人」に届けることであると主張する。
実にごもっともではあるが、「最小の」エネルギーコストを意識させられる暮らしは窮屈だ。
私は、換気は第一種全熱交換型を24時間運転し、冷暖房をはじめ照明は欲しい時に欲しいだけ使うことにしている。
おかげで、猛暑日が続くこの夏も涼しさ満点の住み心地を堪能している。なんといっても、空気が爽やかで気持ちいい。
それでも、「涼温な家」に暮らす多くの人が言われるように電気代はとても安上がりで、コストパフォーマンスも申し分ない。
松尾さんは、マズローの欲求5段階説を持ち出し、2段階の「安全の欲求」を満たすには、「十分な工学的知識」が必須であるのだから、設計士たるものは理論をしっかり学び、計算能力を高めなさいと語っている。
そして、家づくりは「数字で考え、コスパで評価」することが大事であると。
このご意見も大いに頷けるのだが、家づくりはマズローの5段階説でいうなら、最高の段階、すなわち自己実現の欲求そのものなのだから、2段階で止まる家づくりでは大損してしまう。
5段階を実現するには、工学的知識や省エネ計算のスキルもさることながら、住み心地の質に対する感受性を高めることが何よりも大事だ。
「数字で考え、コスパで評価」では実現不可能である。
計算できるものが正しいとするのであれば、キーボードを叩くだけでみんな正解にたどりつける。となれば、エコハウスは、大量生産ができて価格が安いものが一番だということになる。
住宅の一番大切な価値は住み心地なのだと知った人は、そんな正解を求めるよりも、まず、体感ハウスを訪問し、住み心地感想を読まれるに違いない。
それらの本が、エコハウスの教科書として駆け出しの設計士の能力向上に役立つのは確かだ。残念に思うのは、上質な住み心地を創出するために必要なのは、何よりも住む人の幸せを願う心と、感受性であることを書き忘れていることだ。
- 一条工務店との違い
- 健康長寿の時代の家づくり
- 「エコハウスという魔法」
- 「エコハウス」って?
- 新しい家のカタチ
- 「丁寧な仕事に敬意を払う文化」を破壊する人たち
- 心の涙で泣く人間
- からだで感じ、からだで考えるならば
- ロボットが造る家
- 妻が喜ぶ家を
- 自足できる家
- 「涼温な家」はダメな家なのか?
- ある精神科医の話
- 住み心地は百薬の長
- 色のある屋根
- 松井 修三 プロフィール
- 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
- 1961年中央大学法律学科卒。
- 1972年マツミハウジング株式会社創業。
- 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
- 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
- 現在マツミハウジング(株)相談役
- 著書新「いい家」が欲しい。(創英社/三省堂書店)「涼温な家」(創英社/三省堂書店)「家に何を求めるのか」(創英社/三省堂書店)